私は42歳のときに子を授かりました。その時、私の母は90歳。初孫でした。産湯につかってピカピカになった赤ちゃんが部屋に運ばれてきたとき、ベッドのそばにそろりと寄ってきた母は拝むように手を合わせ、愛おしそうに満面の笑みを浮かべ、しかし真剣な面持ちで申しました。
「おめでとう! 私は本当に幸せよ、ありがとう。そこで、あなたにしっかり聴いておいてほしいことが4つあるの。
まず、この子は、今は飲むだけ、出すだけ、泣くだけ、眠るだけかもしれないけれど、立派な一個の人格です。親の所有物ではありませんよ。
次に、この子に対して理想像をもってはなりません。将来こういう学校へ行って、こういう職業についてほしい、などと思い始めると、理想がどんどん大きくなり欲深くなって、つい子どもをその枠の中にはめこんでしまう。子の幸せを願うばかりに親の価値観を押しつけがちなの。そうではなく、この子は何をしているときが嬉しそうかなどを見ていてあげて、好きなこと、得意なことを自然に伸ばしてあげられたら良いと思うのよ。でも、過度な期待はしないこと。
あなたの職業はコーディネーター。異文化間で人の気持ちをいち早く汲みとり代弁、代行してあげる潤滑油役。仕事上では役立つあなたの資質は、気がつき過ぎで、言葉数の多い母親になりかねない……。うるさい母親は、子どもにとって迷惑です。深い愛情をもって子に接することと、過保護、過干渉になるかもしれないこととは、紙一重なのです。
最後に、この子が挫折することを恐れてはなりませんよ。立ち上がるエネルギーのある若いうちに転べば転ぶほど、さまざまな人の痛みを感じることのできる心の優しい、そして強い人間になれます。とても大切なことなの。」
この“言葉のプレゼント”をいつも心に抱き四苦八苦しながらも、精一杯の愛情をそそいで育てたつもりです。息子は健やかに今春大学を卒業しました。
どうぞ、皆さまも、自信をもって、いっぱい愛を感じながら親子ともに育つ歓びを楽しんでいただきたいと、心からのエールを贈ります。
|